皆さんクリスマスはいかが過ごされましたでしょうか。シュンヤとリンの自我を持った二人のバイオドロイドも、その後どう過ごしたのでしょうか。その様子を今回の公演パンフレット(というか1枚ものなのでリーフレット)に掲載してみました。公演をご覧になったのにパンフをよく見てなかった方や、公演をご覧になれなかった方のために、ブログにその内容を掲載します。ケータイからも読めます。
上演した物語の前と後のお話です。前代未聞のパンフレットですが、上演前に読まれた方はどう感じましたでしょうか。以下、本文です。予め言うまでもないかもしれませんが、本文に出てくる登場人物名や団体・施設名はすべてフィクションです。
現在ロボットと呼ばれるものには様々な種類がありますが、千代田研究所は主に教育・研究用ロボットの研究・開発に携わってきました。具体的に言えば医大生の手術訓練用のロボットや、救助隊が人工呼吸などを訓練するためのロボットです。他所でも同様のロボットを研究・開発しているところはありましたが、千代田研究所が力を注いでいたのは「思考する」「生体組織を備えた」バイオドロイドと呼ばれるものでした。
第一世代は人間の首から上の頭部を模したもの、第二世代は視覚・聴覚・触覚を兼ね備え、表情や身振り手振りで言葉を表現する上半身だけのもの、そして第三世代になって、ほぼ見た目が人間と同じ全身を持ち、足を使って自力で移動することが可能になりました。その技術を応用すれば、警備員や会社の受付、ホテルのコンシェルジュなどとして活躍させることもできたでしょう。ですが量産することは難しく、作業用ロボットとして導入するにはコストがかかりすぎるため、企業からの引き合いはありませんでした。
肝心の教育・研究用としても高度な技術を使っている割には決め手に欠けるところがあって、資金調達が難しくなってきました。そこで海牛博士率いる人工知能研究チームは、ロボットに人間らしい感情と自我を与えることを考えました。それがどれだけ実用的な研究なのかは誰にもわかりませんでしたが、少なくとも開発できれば世界初の「自我を持ったロボット」になります。全世界的に話題を呼び、海外からも買い手が来るのではないか。研究を始めた頃はその程度にしか考えていませんでした。ところが、様々な知識や知恵を与え、さらには様々な性格を持たせていくうちに、そのロボット(第四世代バイオドロイド)たちに魂が宿っているのではないかと錯覚する研究者たちが出てきました。そして自分たちは神をも畏れぬ行為をしているのではないかと不安になってきたのでした。その不安の種が、プロトタイプ(試作品)の「研究所からの脱走」というかたちで実を結ぶことになるとは誰も予想していませんでした。
ヴィラ(男性)型のシュンヤ(おかみ)とイナ(女性)型のリン(平田)は、研究室で徹夜明けで寝ている博士のロッカーから、現金の入った財布を盗み、研究所の作業員用の服に着替え、偽造したIDカードを使ってまんまと研究所を脱走したのでした。
皆さんがご覧になるのは(なったのは)、彼ら第四世代バイオドロイドたちが、遠く離れた安ホテルに逃げ込んでからの話です。果たして迎えるのはハッピーエンドかアンハッピーエンドか。本編をご覧になった後、どのような感情が皆さんの中に湧いてくる(きた)でしょうか。
それから一年が経って、シュンヤは再開発地区の警備員、リンはリゾート地のホテルでコンシェルジュになっていました。誰も彼らが千代田研究所から逃げ出した、第四世代バイオドロイドだとは気付きません。それ以前に、千代田研究所の存在を知っている人が、日本にどの程度いるのかもわかりません。海外のメディアもすっかり興味を失っています。
そして当の本人たちも、自分たちがバイオドロイドであることを忘れてしまうことがあります。実際は電子頭脳が「忘れる」などということ自体あり得ないのですが、彼らにとってバイオドロイドであることの意味がなくなってきたのかもしれません。そもそもバイオドロイドであることの意味自体彼らにとっては不要なことだったのかもしれません。
リンは職場で知り合った三十代のホテルマンと仲良くなり、一緒に暮らすかどうか悩み始めて、自分がバイオドロイドであることを再認識しました。そして、かつて行動を共にしたシュンヤのことを思い浮かべるのでした。もしシュンヤだったらどうしただろう。でも、もし相手がシュンヤだったら自分はどうしただろうということまでは考えませんでした。それは考えるまでもないことだと思ったからです。
シュンヤは仕事の休憩時間に職場の女性が差し入れてくれたお菓子を食べたり、自宅でテレビのお笑い番組を見ている時に、ふとリンを思い出すことがあります。自分はすっかり忘れていたはずなのに、なぜ彼女を騙してまで全てを忘れさせるようなことをしたのだろう。イヤな思い出は忘れたほうがいいと思ったのだろうか。そうすることで、彼女が望む「まともな生活」を送ることができるようになると思ったのだろうか。いくら考えても論理的な解答を見出すことができませんでした。そして、それこそが本能であり自我なのかもしれないと無理矢理思うことで、自分がバイオドロイドであることを忘れるのでした。
アルカエフルクトゥスの化石は、現在発見されている被子植物、つまり「実を結ぶ植物」の化石の中でも最も古いことから、古代の果実という意味で名付けられたそうです。「草木も眠る丑三つ時」という言葉がありますが、禁断の果実を口にした彼らは、安心して眠ることができるのでしょうか。
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